ヴルームの期待理論から考える、支援職のキャリア

こんにちは。
本コラムでは、支援の現場で働く一人のスタッフの歩みを通して、「やりがいを感じながら長く働くためのキャリア」について考えてみたいと思います。
今回は、保育士から言語聴覚士の道を選び、現在は支援員として活躍しているFさん(仮名)の事例をご紹介します。
集団支援への違和感から始まった問い

Fさんは、もともと保育士として働いていました。子どもが好きで、子どもと関わる仕事にやりがいを感じていた一方で、集団の子どもたちを一つの活動にまとめていく支援のあり方に、次第に違和感を覚えるようになります。
「もっと一人ひとりに合った関わりができないだろうか」
この問いが、Fさんのキャリアの転機となりました。
日々の現場の中で感じた小さな違和感を見過ごさず、「自分はどんな支援を大切にしたいのか」を考え続けたことが、その後の進路選択につながっていきます。
個別性を大切にできる専門性を求めて

Fさんは、個別の関わりをより大切にできる専門性として、言語聴覚士という道に関心を持ち、学びを深めていきました。
当初は「小さい子どもとはあまり関われないのでは」と感じていたものの、調べていく中で小児分野での関わりも多いことを知り、進路を明確にしていきます。
実習では病院で成人を対象とする経験も積みながら、最終的には小児領域を中心に学びを重ね、現在も小児や放課後等デイサービスの現場で働いています。
専門性を高める過程は決して楽なものではありませんでしたが、「自分が納得できる支援に近づいている」という実感が、学びを続ける原動力になっていました。
放課後等デイサービスという現場

放課後等デイサービスは、障がいのある子どもたちが学校後や長期休暇中に安心して過ごし、生活力や社会性を育む場です。
Fさんが関わっているのは、主に小学校低学年の子どもたち。発達段階としても関係性づくりが重要な時期であり、継続的に関わることで少しずつ信頼関係が築かれていきます。
特に、以前から通っている子どもたちとの関係性の中では、言葉のかけ方や距離感が自然と共有され、落ち着いて支援が進む場面も多いそうです。
年齢や関係性の積み重ねが、支援のしやすさや心地よさにつながっている点も、Fさん自身がこの現場にやりがいを感じている理由の一つと言えるでしょう。
ヴルームの期待理論で見るFさんの選択

ここで、キャリア理論の一つであるヴルームの期待理論を紹介します。
この理論では、人が意欲的に行動するかどうかは、次の3つの要素の掛け合わせによって決まるとされています。
期待:努力すれば成果につながると思えるか
道具性:成果が評価や役割、次の機会につながると感じられるか
誘意性:その結果を自分自身が「意味がある」「価値がある」と感じられるか
いずれか一つが欠けると、人のモチベーションは維持しづらくなると考えられています。
Fさんの場合、「個別支援の力を高めたい」という思いが明確であり、学び続ければ現場で活かせるという期待を持てていました。
さらに、その専門性が実際の支援の質向上につながり、役割としても必要とされている実感が道具性を支えています。
そして何より、子ども一人ひとりとの関わりの中で手応えを感じられていることが、高い誘意性につながっていると言えるでしょう。
今の職場で感じている安心感

現在Fさんは、支援員として日々の業務に取り組んでいます。
自分が大切にしたい価値観と、実際の業務内容が重なり、努力がきちんと意味を持つ環境があってこそ、人は前向きに働き続けることができます。
ヴルームの期待理論が示すように、「頑張れば意味がある」「この仕事は自分にとって価値がある」と実感できる状態は、支援職において特に重要です。
支える側が納得感を持って働けているからこそ、利用者一人ひとりに丁寧に向き合う余裕が生まれます。
支援職を検討している方へ

もし今、支援の仕事に興味はあるものの、「自分に向いているのだろうか」「長く続けられるだろうか」と迷っている方がいたら、Fさんの歩みを一つの参考にしていただければと思います。
支援職のキャリアは、最初から明確な答えが用意されているものではありません。
現場で感じた違和感や大切にしたい思いを手がかりに、自分なりの関わり方を探していくこと自体が、キャリアを育てていくプロセスなのです。
おわりに

キャリアは一直線に進むものではありません。Fさんのように、立ち止まり、考え、選び直すこともまた、キャリア形成の一部です。
支援の仕事に携わる私たち一人ひとりが、「自分は何に価値を感じているのか」「どんな環境なら力を発揮できるのか」を見つめ直すこと。
それが、仕事だけでなく人生全体を豊かにする働き方につながっていくのではないでしょうか。
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