「働く幸せの“原点”を見つける心理学」キャリア・アンカー理論でひもとく、“教育業界から福祉職へのしなやかな転身”

キャリアの悩みは「心のバランス」から生まれる

「今の仕事、やりがいはあるけれど、このままでいいのかな?」
そう感じたことはありませんか。

心理学では、こうした“モヤモヤ”は悪いサインではなく、

「自分の本音とキャリアのズレを知らせる心のアラーム」だといわれます。

エドガー・シャインが提唱した「キャリア・アンカー理論」は、そのズレを整えるヒントになります。

アンカーとは「錨(いかり)」のこと。どんな環境にあっても、自分を安定させる“働く軸”を指します。

今回は、教育業界から福祉・クリエイティブ職へ転身したWさんの例を通して、

「自分らしい働き方を見つける心理的プロセス」をのぞいてみましょう。

がんばりすぎて気づいた“心の限界サイン”

彼女はもともと教育業界で子どもたちの成長を支える仕事をしていました。
子どもの笑顔や成長が何よりのやりがいで、毎日全力。

一方で、理想を追いすぎて「頑張ることが当たり前」になり、気づけば心も体もヘトヘトに……。

燃え尽きのような感覚に襲われたとき、彼女は初めて立ち止まりました。
「子どもたちを支えたい」という思いの奥にあったのは、
まさにキャリア・アンカー理論でいう「奉仕・社会貢献型アンカー」。

心理学でいう“自己一致(self-congruence)”の感覚が薄れると、
やりがいがあっても、心は満たされなくなるのです。

自分を大切にできる働き方を選ぶ勇気

その後、彼女は新しい働き方を探す中で、
夜間勤務や不規則な生活による体調不良を経験しました。

「誰かのために」が強い人ほど、自分の健康や生活を後回しにしてしまうことがあります。
心理学でいう「燃え尽き症候群(burnout)」は、まさにその典型例。

この経験を通して、Wさんはもう一つのキャリア・アンカー、
「安定・保障型アンカー」に気づきました。

「長く働くためには、自分自身を守ることも大切なんだ」と。

福祉業界への転職を決意したのは、まさにその“心の整理”の結果でした。

未経験の世界で見つけた「新しい自分」

現在は、福祉分野のクリエイティブチームで、
動画制作の進行管理や外部スタッフとの調整を担当しています。

「人と関わりながら何かをつくり上げる」
この仕事の中で、教育現場で培ったコミュニケーション力が存分に活かされています。

子どもの気持ちをくみ取っていた頃と同じように、

今はメンバーやクリエイターの意図を理解しながら、

それぞれの強みを引き出しています。

キャリア・アンカー理論でいえば、ここで強く表れているのが

「専門・職能型アンカー」。
「人の可能性を引き出す力」は、どの業界でも生きるスキルです。

事務職より“感情”と“創造”を動かす仕事

福祉×クリエイティブという職場では、
数字だけでは測れない“人の変化”を成果として感じられます。

事務職では味わいにくい、「ありがとう」や「助かりました」

という言葉が日常の中でフィードバックとして返ってくるのです。

また、近年は給与水準も上昇傾向。
一般事務よりも高めのスタートを切れるケースもあり、
“やりがいと安心”のバランスが取れた働き方ができます。

心理学でいえば、報酬(外的動機)と意味づけ(内的動機)の統合が、仕事満足度を高めるカギになります。
彼女のキャリアは、その好例といえるでしょう。

あなたの「キャリアの錨(アンカー)」を見つけよう

キャリア・アンカー理論は、
「何が自分を動かしているのか」を見つめ直すツールです。

たとえば、こんなタイプがあります。

  • 人の役に立ちたい(奉仕・社会貢献型)
  • 安定した環境で安心して働きたい(安定・保障型)
  • 専門性を磨き続けたい(専門・職能型)
  • 自分の判断で仕事を進めたい(自立・独立型)

どれが正解というわけではありません。
大切なのは、自分が一番自然体でいられる軸を見つけること。

彼女のように、「これまでの経験を別の形で活かす」ことで、
新しいキャリアの扉が開けるかもしれません。

キャリアは“積み上げる”より“整える”

心理学では、キャリア形成を「外側に積み上げるもの」ではなく、
「内側を整えるプロセス」と捉えます。

教育や福祉、クリエイティブといった業界の垣根を超えて、
「自分がどう生きたいか」を問い直すことが、
一番のキャリアアップにつながるのかもしれません。

あなたの“錨”は、どんな形をしていますか?

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